ハンセン博士の証言

一九八八年五月のことです。アメリカの議会で、地球学者ジェームズーハンセン博士がつぎのような証言をしたのです。「地球の平均気温が異常な率で上昇しつつある。これは、自然現象ではなく、人間活動によるもので、とくに化石燃料の大量消費という現代文明によってもたらされたものである。このままつづけば、二十一世紀のなか頃には、地球の平均気温は、現在より二度ないしは三度上昇するであろう。それにともなって、気候が大きく変動し、自然の環境も、これまで人類が経験したことのないほど大きく変わる。そのときには、人類もこれまでのような生活をいとなむことはできなくなるであろう。」この、ハンセン博士の証言は、アメリカだけでなく、全世界の人々につよい衝撃を与えました。

一九八八年には、アメリカの中西部の穀倉地帯が大きな干ばつに見舞われ、夏の異常な高温もあって、農作物が大きな被害をうけたり、大ぜいの人々が飲み水がなくて苦しみました。また、南極や北極のオゾン層に大きな穴があいて、放射性をもった紫外線によって、皮膚ガンの患者がふえつつあることが話題になったばかりでした。

アメリカではそのあとも、異常としか思えないような気象条件の変化、自然災害が相次いでおこりました。一九九〇年秋には、フロリダで、今世紀最大というハリケーンが襲って、アメリカ史上最大の自然災害がおきています。また、一九九三年には、ミシシッピー河が大氾濫をおこし、広大な地域が水浸しになって、一年近くも水が引かないという災害に見舞われました。これも一〇〇年ぶりという大きな規模の自然災害でした。

日本でも、一九八四年には気象台はじまって以来という寒波に襲われました。ところがその翌年には異常な暑さを経験しています。一九八〇年代から現在にかけて、極端に雨の少ない年、逆に多い年が相次いでおこるという異常気象がつづいています。同じような異常気象は、ほかの国々でもみられます。たとえば、バングラディッシュでは、一九八八年秋に、大きなサイクロンに襲われ、河川が氾濫して、国土の三分の一が水没し、五〇〇〇万人の人々が住居を失ったといわれています。つづいて、一九九一年には、史上最強のサイクロンに見舞われ、国土の三分の一がまた、海面下に水没して、二〇万人の人々が死亡するという災害がおこっています。

このような異常気象が世界の各地で、ひんぱんにおこっているのをみて、地球大気全体について大きな変化がおきているのではないかという不安を人々はもっていたのです。ハンセン博士の証言は、人々がもっていた漠然とした不安には、充分な科学的証拠があることを示したわけです。