イスラエルが米国を動かす

軍事協力の詳細はことの性質上、明らかでないが、一九八六年十月二十四日付のエルサレムーポストの論評が示唆的である。「米国はソ連封じ込めやテロリズムとたたかう上で、イスラエルを主要な資産とみなしている」「軍事関係の制度化が進み、政治・軍事に関する米国・イスラエルの共同作業グループが定期的に会合している。内容は公表されないが、戦略的協力が劇的に進展していることは間違いない。騒がしく宣伝はしないが、前例のないほどの協力関係の構築が静かに進行している」「イスラエル北大西洋条約機構NATO)の加盟諸国に準ずる待遇を得る問題が懸案となっている。これが実現すれば、イスラエル軍事産業ペンタゴンと有利な契約を結べるほか、米国から最新兵器を安く購入できるようになる」レーガン政権はイスラエルの建国以来、最も親イスラエル的政権だとイスラエルでは評価されている。米国はイスラエルを主要な同盟国のひとつと認識しているのだ。

レーガン大統領を支える人たちは、みなイスラエルに同情的である。ブッシュ副大統領、ヘイグ、シュルツと続いた国務長官、ワインバーガー国防長官らである。だいたい親アラブの人物ならもちろん、アラブとイスラエルに公平な考え方の持ち主でも、ワシントン政官界の中枢に進出することはきわめて困難なのが実情だ。AIPACのダイン専務理事は、八六年四月、ワシントンでの第二十七回AIPAC年次政策会議の席上、こうのべた。「AIPACは(ホワイトハウスや議会だけでなく)国務省ペンタゴン財務省、CIA、さらに商務省、農務省にまで親イスラエル勢力を拡大させている。(中略)イスラエルの経済再建にはシュルツ国務長官が大いなる力になってくれた」

イスラエルと在米ユダヤーロビーの努力は確実に成果をあげたわけである。とくに名ざしで感謝されたシュルツ長官などは、両国の協力体制が「レーガン以後の政権によって簡単に白紙に戻らぬよう、着実に官僚機構の中に組み込んでおきたい」とまでもらしているそうである。相互依存は一九七〇年代から国際政治のファッション的概念となり、米ソ関係にまで及んでいる。すべての国が相互依存でがんじがらめの関係になれば世界の安定的平和は確実に増進する。だが、米国とイスラエルの相互依存関係は二国間関係の安定にとどまっており、それがアラブ世界にどんなインパクトをもたらすかが問題である。

米国とイスラエルがそれほど強力な協力体制をつくった以上、アラブがイスラエルに挑戦するのは困難だとのあきらめを生むのか、あるいは欲求不満を強め、むしろ内向した敵意を醸成してゆくのか。そこがはっきりしない限り、他からの脅威や圧力に鋭敏に反応するイスラエルの国家的体質は急速には変わりそうにない。砂漠の旅人が地平線のかなたの小さな黒点を発見するやただちに避難と防御の行動を起こすに似て、平時のイスラエルはしばしば過剰反応を示してきたのだが、それがたとえ抑制されるとしてもきわめて緩慢なものとなろう。

米国はイスラエルの大スポンサーなのだから、中東紛争の解決にあたって、もっとイスラエルに圧力をかけるべきだ、といった議論がよく聞かれる。それが誤った議論であることは、すでに明白である。イスラエルは他の分野では米国の大スポンサー役を演じているからだ。「アンビバレンス」の項で、イスラエルがイランに米国製武器を供与していると書いたが、この両国の奇妙なコネクションがイランと断交中の米国にもプラスになりうる。一九八五、六年に米国ばこのコネクションを通じてイランに武器を供ケし、その代償として、レバノンで誘拐された米国人人質を解放するのにイランの協力を仰ぎ、成功したことがある。米国の裏取り引きは「権力政治の非道義性」を絵に描いたようなものだが、それはともかく、ここでも米国がイスラエルに大きな借りをつくっていることを見のがせない。