沖縄は日本でいちばんアメリカに近い島

小冊子だが、ちょっと面白い最新データを入手した。これは自動車雑誌の附録だったのでしょうか。保存状態が悪く、表紙が取れてしまって判然としないのだが今井亮一氏の〈交通取締りサバイバル読本〉から抜粋させていただきました。交通違反のお国自慢とでもいうべきものだが、速度違反が多いのはなんとなく察せられるとおり北海道で二十一万八千四百六十九件、全取締りの五十八パーセントを占める。二位は大阪、三位は東京で、沖縄は速度違反が全国一少なく七千八件でした。駐車違反の取締りが多いのは、これも察しのとおり狭苦しい東京で、二位は大阪、三位は神奈川、一時停止違反が多いのは栃木県で、笑ってはいけないが信号無視は大阪が断トツの一位で、二位の北海道の倍以上。そして、有終の美を飾るのは飲酒運転ですが、全交通違反取締りのなかで飲酒運転が占める割合は全国平均で二・七二パーセントだが、なんと沖縄県は一三・三六パーセントと全国平均から突出して見事に一位でありました。

速度はださないけれど酒は飲み放題という沖縄の運転事情がわかるデータでした。実際に沖縄の道路を走っていて驚かされるのはセンターライン上を行き来するスクーターだ。東京などでも渋滞時、対向車線を走って距離を稼ぎ、対向車がくるとひょいともとの車線に潜りこむということをするけれど、沖縄の原チャジ共の悪怯れるところのないおおっぴらさ加減には呆れてしまう。あんなスクーターを引っかけても、過失相殺などで責任を取らなければならないとしたら、たまらない。原チャリで思い出したが、どうも沖縄はバイクや自転車を盗まれることが多いらしい。正直なところ坂の多い沖縄で自転車など漕いでいられないというのが私の本音だが、それはともかく、私の趣味がオートバイであることを知った沖縄の人が口を揃えて「沖縄はバイクやチャリンコがすぐになくなるさ」と注意を喚起するのだから、かなりひどいのだろう。

けれど単独の場合は、本島にかぎらず原付で走ってちょうどの広さであるような気がする。あまり陽射しの強くない時期に、それでも意識して肌の露出の少ない服装で那覇から淡々とを一万岬まで走るのは、その程良い疲労も含めてとても心地よいものだ。いまでもサトウキビ畑の合間を抜けていく自分の姿がありありと脳裏に乏ぶ。オートバイで思い出したが、このあいだ海中道路伊計島にわたったところ、ダートトラックのコースが造られていた。ダートトラックというのはアメリカで大人気のオートバイレースだが、ちょうど日本のギャンブルレースであるオートレースとよく似た形状の、けれどコースが舗装されているオートとちがって平坦な未舗装の泥道を後輪を滑らせ、派手に逆ハンを切って走るレースだ。走っていたのは改造レーサーでマフラーから吐きだされる排気音はかなりのものだったが、人口密度の低い島の先端である。文句のでるはずもなく、なんとも愉しそうだった。しばらく見守って私は嫉妬した。心底から羨ましかったのだ。

このダートトラックアメリカから入りこんできたものだが、瀬長島のドリフトもどうやら米兵が率先して走りはじめたのではないか。いま思い返すと、ぶつけたドアだけ替えたせいで赤とシルバーの二色最中のような奇妙なAE86をテールスーフイドさせてい。だ米兵が〈頭文字D〉を読んでいるはずもないだろうから、あの島のドリフト大会を仕切っていたのがアメリカ人であることは間違いないようだ。だだっ広い本国で好き放題遊んでいた米国人が、沖縄にやってきて、おなじことができる場所を求めて瀬長島を見いだした。そんな気がする。ただし沖縄は狭い。だから瀬長島のドリフトは見ているほうがでフハーフするくらいに接近し、幾台も連なって尻振りダンスを踊るわけだが、その姿はカルガモの親子のようだった。

やはり沖縄は日本でいちばんアメリカに近い島なのだ。鉄道がないということも含めて(過去の那覇路面電車、そして軽便と呼ばれた県営鉄道などのことは把握しています。それどころか弾痕の残る糸満線の橋台跡も見にいったことがあります)、モータリゼーションこそが沖縄の大きな特徴であると感じているが、やはり良くも悪くも米国の影響を抜きに自動車主体の生活を語るわけにはいかないだろう。しかし、なぜ、私は瀬長島に惹かれるのだろう。十幾年も前の瀬長島の光景を、私は映像のかたちでなら、ありありと想い描くことができるのだ。海中道路をわたって右手にあらわれるカードファミリーランドは、いつも開店休業状態だった。深夜零時をすぎてもカードのコースには煌々と明かりがともっていて黄金色に照り映え、客を誘っているのだが、なにしろわざわざ金を払ってカードに乗り換えてドリフトをしなくても、自分の愛車でやりたい放題の島である。