南北朝鮮問題

現在の金大中大統領は、全羅道から出たはじめての大統領である。韓国では李承晩政権以来、今まで、慶尚道出身者が代々政権の座についてきた。朝鮮半島は、全羅道慶尚道、京畿道、忠清道、江原道、平安道黄海道咸鏡道の八道に区分されているが、これは李朝時代の行政区分であり、地域によって官吏になれないなどの差別があった。

全羅道は、李朝時代に他の地域から一段下に見られていたが、いまだに慶尚道の人は全羅道の人を下に見る傾向がある。職場、学校など、あらゆる場面で同郷の結びつきが強固であり、同郷の先輩というと兄弟のような感覚で付き合うことも多い。日本のなかでも在日韓国・朝鮮人が故郷の出身地ごとに固まって住んでいるのも、実は、このような地域の結びっきによるところが大きい。

北朝鮮の核疑惑によって、南北関係が緊張していた一九九四年の南北次官級会談で、北朝鮮側首相代表が「戦争が起これば、ソウルは火の海になる」という発言をして、韓国民だけでなく全世界の人々を驚かせた。同じ民族であるにもかかわらず、北朝鮮に対して少なからず脅威を感じている韓国民は多いようだ。しかし一方で、十年、二十年という近い将来、南北は統一する、と考えている人も少なくない。

現在、朝鮮戦争による離散家族は一〇〇〇万人にもなるという。朝鮮戦争の停戦から五〇年近くが過ぎ、離散家族も高齢化している。「現代」財閥の鄭周永会長が、食糧難の北朝鮮に牛をプレゼントしたり、金剛山観光開発に投資するのも、北朝鮮が自分の故郷であり親族が住んでいるからである。朝鮮の人々の故郷への思い入れはひじょうに強い。

韓国人は初めて会った人に「故郷はどこですか」と必ず聞く。朝鮮民族にとって「故郷」とは、自分が生まれた場所であるだけでなく、同姓の親族がたくさん住んでいるところであり、祖先の墓のあるところであり、また自分の祖先が発祥した「本貫」の地なのである。また、親族の距離は、日本では「親等」で数えられるが、朝鮮は「寸」である。たとえば、叔父はコニ寸」、従兄弟は「四寸」とよぶが、現在でも、十寸、十二寸くらいまでは、近い親族として考えられている。