労働者との間のみなし雇用契約

よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。」(パナソニックプラズマディスプレイ事件、平21・1・18最高裁小二判決、労判993・5)しかしながら、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告不」(昭61・4・17労告37号)に関しても、その要件をめぐって問題があり、なかなか偽装請負とは認定しがたい問題もあります。

そうした場合、請負事業者としては自社の適正請負を主張して、発注者に対して直接雇用を承諾した労働者についても自社との労働関係が続いていると主張することになります。また、発注者側も、違法な派遣や請負に該当しないので自社と請負事業者側に雇用されていた労働者との間にみなし雇用契約は発生しないと争うことになります。前記した「派遣可能期間の制限」の違反に対しても、派遣元としては適正な派遣管理をしており、違反は犯していないと争うことも当然ながら予想されます。そうすると、派遣先のみならず派遣元も加えた派遣労働者との間の三面関係の労働紛争が生じることが予想されます。行政官庁による「みなし雇用」への関与の問題。従前から、道府県労働局の労働者派遣問題や偽装請負問題をめぐる行政指導については、その不統一性と不整合性について強い批判があります。

この点についても国会で議論されており、例えば派遣法案に関し平成24年度の通常国会での厚生労働委員会における法案修正者田村憲久衆議院議員の答弁においても、「この3年間の、経過措置を設けた理由でありますけれども、まず、違反をするとみなし雇用になってしまうという話になったときに、例えば専門26業務の問題、これが、適正化プランが出されましてから非常に現場が不安定になっております。使っている側は、これは専門業務だというふうに思って使っておるんですが、その中身で、当局がやってまいりまして、これはそれに該当しないと、だからおたく違反ですよという話になれば、これはもう本当に不意打ち食らったみたいになりこれもみなし雇用で、派遣先は直接労働契約を結ばなきゃならないのかということになれば、もう怖くて26業務ですらこれは派遣を受け入れないという話になってくるわけです。

これは請負も同じでありまして、37告示、これ以来、やはり請負の方も、指揮命令がどうだとか、指示また管理がどうだとかというところで結構、企業と労働局においても認識が違うわけでありまして、戸惑いがあるわけでありまして、即一発で退場といいますか、みなしですよと言われちゃうと、これはもう業務が成り立たなくなってくるわけでありますよね。ですから、こういう部分のところの周知徹底もやらなきゃいけないというのがあります。また、採用の自由だとか、それから労働契約の合意原則ということを考えれば、罰則(ペナルティ)という形でこのみなし制度というものを入れるというのが本当にいいのかどうか、こういう議論もこの3年間でしっかりとやる必要があるのではないのかというふうに思っておりまして、そのような思いも込めてこの経過措置を取ったというような認識でございます。」(平24・3・27参議院厚生労働委員会)と、その実態が述べられています。