伸びれば有利な雇用慣行

さて、こうした「官僚主導・業界協調体制」で過剰投資や新規参入を抑制すると、既存の業界は経営が安楽になる。同時に官僚の側も所管企業の役員や各種業界団体の理事職などの天下りポストが得られる。天下った元官僚がまた、業界の意向を現役官僚に流す役割を果たす。こうして官と民との「もたれ合い」の仕組みができたのである。

これは市場原理を抑制し、競争による進歩を妨げる。消費者の利益を損なう恐れもある。だが、規格大量生産型の確立を国是とした八〇年代までの日本では、行政指導による産業政策と業界の協調体制こそ、「日本の美徳」と胸を張っていい切ったものだ。

官僚主導・業界協調体制で、既存の企業は安定する。それを背景として確立されたのが、日本式経営である。日本式経営の特徴のまず第一は、終身雇用、年功賃金、企業内組合の三つに象徴される「閉鎖的雇用慣行」である。いったん入社すると定年まで辞めさせられる心配はない。その代わり中途採用も原則としてしない。従って、途中で辞めたり、途中で入社するのは不利になる。

また賃金の面でも年々定期昇給があり、人事の点でも年功で昇進する。どこの職場でも若い人は賃金が安くて中高年ほど高い、というのが年功賃金体系である。この雇用慣行は、企業が成長拡大し、若い新しい人が多く入ってくれば、企業経営に有利に働く。企業全体の従業員の年齢構成が、若い人が多くて中高年が少ないピラミッド型になっていれば、支払い賃金総額を低く抑えられるからだ。高度成長中の日本企業は、この点でも大変有利だった。

また、年功賃金体系では、若い頃は働きよりも賃金が安いけれど、中高年になると働き以上の高賃金になる。最終的には退職金で貸し借りが精算される。つまり、若い間は企業にお金を預けておいて、中高年の時の高給と退職金でそれを返してもらう仕掛けという見方もできる。つまり従業員は自分の勤める企業に投資をしているわけだ。