証拠文書の提出義務とは

そういう技巧的な方法に頼ると、結局事実が不明確なままの状態を受け入れてしまい、「日本の裁判で証拠が出てこないという実状は仕方がない」ということにもなりかねないのではないでしょうか。こうした小手先のテクニックだけでは、本質的な問題は解決しません。

実は、もっとその前にやるべきことがあるのです。どうすればいいかといえば、もっと証拠を出しやすくする法律を作るべきなのです。この点は、弁護士にとっては自明すぎることなので、総論的には、そういう方向で弁護土会の意見もほぼまとまっています。

「日本でも、もう少しは証拠が出るようにしようではないか」という話が具体的になったのは、一九九〇年代も後半のことでした。法律のことをよくご存じの方は、新民事訴訟法(一九九六年改正、九八年施行)のことをお聞き及びのことと思います。

これによると、それまでの証拠文書の提出義務が、個別的な「限定的義務」から「一般的義務」に改正されたことになっていました。これを文書の「一般提出義務」といって、原則として、関係する証拠文書を出す義務があるように変かったはずでした。ところが、そのせっかくの法律の趣旨が、こともあろうに(というより案の定)最高裁によって、なし崩しになってしまうような事態になりました。