手数料ビジネスのうまみ

二次代理店を切り捨てた重田はこれ以降、携帯電話市場に突き進む。一九九四年四月、携帯電話の売り切り制がスタートしたと、前にも書いた。五月には、専門小売店『HIT SHOP』の第一号店を新宿に開設した。『HIT SHOP』はフランチャイズ方式で急拡大を遂げ、九九年八月期末の店舗数は千八百十六店に達した。重田がDDIの携帯を売ることに決めた理由を、同事業の初期の頃の二次代理店の経営者が明かしてくれた。「重田さんに呼ばれていくと、IDOの通信マニュアルを渡されて、これでやるからよろしくなという。けれども、次の日になり、『デジタルフォーンにしたから』と連絡してくる。すでにIDOで手配してしまっているのにですよ。そんなことは意に介さない。

これは気紛れとか、重田さんが持つ二面性とかではない。単純に金の問題なのです。コミッション(手数料)の良い方を選んだ。重田さんの頭の中は数の論理と金の論理しかなかった」。携帯電話市場では価格競争が激化した。携帯電話が登場してきた時は、販売価格は一台、十万円前後だったが、売り切り制がスタートしてからは五万円前後に急落。一万円前後にまで下がっても、重田には高収益が保証されていた。キャリアから支払われる販売手数料、中でもストックコミッションがあったからだ。

光通信の売上高の構成は他の企業とは大きく異なっている。はっきり言って異質だ。九九年八月期決算によると、売上高の五割強を「販売手数料」が占め、後の五割弱が「商品売り上げ」となっている。商品売り上げは、仕入れた携帯電話などの端末を『HIT SHOP』で売ったり量販店に卸したりした金額だ。普通の企業では「商品売り上げ」を売上局として計上し、「販売手数料」は営業外収益として計上する。もちろん、商品売り上げを上回る販売手数料が支払われるようなことはない。光通信の特異な点は販売手数料が全営業収入(全売り上げ)の半分以上を占めることだ。

九九年八月期は、商品売上高が商品売上原価を上回ったが、それまでは原価が売り上げより大きかった。中でも九七年八月期は極端だ。商品売り上げ二百六十三億円に対して原価は七百十四億円。差し引き四百五十一億円の赤字。仕入値の六割引きで端末を売った計算になる。一方、販売手数料は九百四十六億円で、原価の項目はない。原価を下回る価格で売っても、販売手数料で稼げばいいのだ。赤字販売をしても、数量を増やせば販売手数料が増加し、これが収益に化ける。これが光通信の手数料ビジネスの本質だ。

販売手数料は「受付コミッション」と「ストックコミッション」に二分される、と書いた。受付コミッションは、携帯電話の端末を一台売るごとにキャリアから支払われる手数料。ストックコミッションは、携帯電話の加入者がかけた通話料に応じて支払われる手数料のことだ。受付コミッションは、一回だけの支払い。一方、ストックコミッションは、五年間にわたり、何の営業努力をしなくても、ユーザー(携帯の利用者)が電話をかけるたびに支払われる。まさに「濡れ手で粟」。他の産業ではおよそ考えられない、キャリアによる大盤振る舞いだ。

受付コミッションは営業努力の対価だが、ストックコミッションはコストはかからず、そのままストレートに利益になる。九九年八月期の決算では、営業利益は五十五億円。もし、ストックコミッションの百二十億円がなければ営業段階で完全に赤字だ。契約数が増えれば、このストックコミッションは当然増える。携帯電話ブームが続くと仮定すると、今後、五年間、(重田は)果実を確実に手に入れることになる。